生徒会長は、ときおりうなずきながら、穂香の話を最後まで聞いてくれた。「なるほど。その小説では、主人公の女の子が、未来からきた科学者に恋をしたけど、時代が違うからずっとは一緒にいられないってストーリーなんだね?」「はい」「面白そうな小説だね。どんな題名なの? とりあえず、読んでみるよ」「えっ?」穂香と生徒会長の間に沈黙が流れた。「白川さん、どうしたの?」(ど、どうしよう……。こんなとき、レンがいてくれたら、うまく誤魔化してくれるのに!)あせる穂香の目の前に、透明なパネルが2枚現れた。(久しぶりに『選択肢』が出てきた! ということは、これは重要な選択!)パネルには、『嘘をつく』と『正直に話す』が書かれている。(嘘は……うまくつける自信がないから、もう正直に話すしかないよね)覚悟を決めた穂香が『正直に話す』のパネルにふれると、パネルは光り消えていく。「じ、実は、小説じゃなくて……。全部本当の話だって言ったら、信じてくれますか?」生徒会長は、綺麗な瞳を見開いた。「……なるほどね。じゃあ、実は僕は女性嫌いだって言ったら、白川さんは信じてくれる? 大勢に取り囲まれるのは苦痛だし、僕のことを何も知らないのに好意的な目を向けられると警戒してしまう。こんなこと、他では絶対に言えないけどね」穂香は、驚きながら後ずさり、生徒会長と距離をとる。「そうだったんですか⁉ すみません! じゃあ、私も嫌ですよね?」「ううん、白川さんは嫌じゃないよ。だって、初めて会ったときから、僕よりお弁当をキラキラした目で見ていたから」「あっ!」「しかも、僕に一度もときめいたことすらないでしょう?」「それは……。私、好きな人がいるので」生徒会長がホラーゲームの主人公位置だから、当初は『できる限り関わりたくない』と思ってしまっていたのは内緒だ。「うん、やっぱり白川さんはすごいね。僕の女性嫌い発言を疑いもしないんだから」「え? 嘘だったんですか⁉」「いや、本当だよ。でも、僕の演技は完璧だったでしょう?」「確かに。生徒会長がそんなことを思っていたなんて、まったく気がつきませんでした」「でしょう?」フワッと微笑んだ生徒会長は美しい。それでも、やはり穂香はときめかない。「生徒会長は、私の話を信じてくれるんですよね?」「うん、君が困っていたら助けるよ。恩返しもした
生徒会長は、「白川さんがそう言うと、本当に解決できそうな気がするから不思議だね」と微笑んだ。「僕のことは、さておき。話を君のことに戻そうよ」生徒会長は、机の上のものを端によけると、穂香にも椅子に座るように勧める。「さっそくだけど、穂香さんの話を整理しよう。もう一度、話してくれる?」「ありがとうございます!」生徒会長は、穂香の話を聞きながら、メモを取っていく。「話しをまとめると、大人になった白川さんは、とある男性と出会い、その人と結婚すると、人類が滅亡してしまう。それを阻止するために、未来から君の遠い子孫である幼なじみ設定の高橋くんがやってきた。目的は、白川さんの結婚相手を変えること。その恋愛相手候補3人のうちに僕も含まれているけど、白川さんは高橋くんのことが好きになったから、人類滅亡を防ぎつつ、高橋くんも幸せにしたいってことだね?」「はい」生徒会長は、何かを考えこんでいるようだ。「高橋くんは、すごい人だね」「え?」「だって、白川さんの結婚相手を変えたら、子孫の自分が消えてしまうリスクもあると思うんだけど」穂香は息をのんだ。「私の運命を変えたら……子孫であるレンは消えてしまうかもしれない?」生徒会長は、コクリとうなずく。「もしくは、まったくの別人になってしまうとか? これだけ大きく先祖の運命を変えたら、子孫も同じままではいられないんじゃないかな?」レンの今までの言葉が、穂香の頭に浮かんできた。――私はどうしても、あなたに愛をささやいて、生涯側にいることを誓えないのです。――あなたが愛おしくて仕方ありません。でも、告白だけは絶対にできないのです。「ああ、そっか……。レンが私に告白できない理由は、告白したら自分が消えちゃうからだ……」そのことに気がついてしまえば、抜け落ちていたパズルのピースがハマったかのように、いろんなことに気づいていく。「そういえば、レンはずっと監視されているって言ってたんです。その監視の目的は、人類の滅亡が阻止できたら、レンが消えるから……途中で逃げださないための監視……?」穂香は、ハッとなった。「あれ? ちょっと待って。じゃあ、レンは自分が消えてしまうかもしれないのに、ずっと私のサポート役をさせられていたってこと!?」穂香がレンでなくとも、誰かと恋愛するということは、人類滅亡の阻止であると同時に、レ
生徒会長は、「そうだね」とため息をついた。「未来人達の目的は、あくまで人類滅亡の阻止だから、僕達の幸せはそこに含まれていないみたいだね」「そんな……。私、そんなの、嫌です」呆然とする穂香に、生徒会長は微笑みかける。「僕も未来人のやり方は気に入らないな。特に、白川さんの子孫を罪人扱いして、責任を取らせようとしているところなんて、聞いてるだけで気分が悪いよ。どうにかしたいね」生徒会長は、「そういえば……」とつぶやく。「僕の問題を解決できそうな白川さんの知り合いって、もしかして、他の恋愛候補なのかな?」「あっ、そうです。恋愛候補の残り2人は、穴織くんと松凪先生なんです」「穴織くんって、前に僕と白川さんが生徒会室に閉じ込められたときに、扉を開けてくれた生徒だよね? それに、松凪先生も?」穂香は、コクリとうなずく。「穴織くんは、化け物退治の専門家で、先生は、異世界で魔王を倒した元勇者だそうです」黄色の瞳が、驚きで大きく見開かれた。「よく分からないけど、すごそうだね。僕達、恋愛候補の3人は、お互いのためにも協力したほうがいいと思う。今から会わせてもらえるかな?」「それが……」穂香は、今は穴織が異世界で神々の試練を受けているから会えないことを説明した。「どういう状況なの?」と驚く生徒会長に、穂香は苦笑いする。「じゃあ、その試練が終わり次第合わせてもらうとして……。あとは、高橋くんは、未来から来た天才科学者で、白川さんは、パートナーになった相手を少しだけ幸せにできるって言ってたよね?」「正確には違うんですが、そんな感じです」「皆、すごいね。僕は自分で言うのもどうかと思うけど、自由に使えるお金が多い。ねぇ、僕達が協力したら、なんでもできそうじゃない?」生徒会長の顔は、どこまでも真剣だ。「それこそ、人類滅亡の阻止も、僕達、皆が幸せになれる未来作りも」穂香がうなずくと、風景が変わった。【同日 放課後/教室】(生徒会室から、教室に飛ばされてる)夕焼け色に染まる教室には、レンしかいない。穂香を見つけると、レンはため息をついた。「遅いですよ。もう、皆、帰りました。文化祭の準備は、また明日やるそうです」(あっ、そういえば私、文化祭準備の時間延長申請のために、生徒会室に行ったんだった)いろいろありすぎて、すっかり忘れてしまっていた。「ごめん
穂香とレンが一緒に教室を出ると風景が変わる。【10月14日(木) 朝/職員室前】(放課後の教室から飛ばされて、次の日になってる)穂香は、職員室の扉を開けると、松凪先生の姿を捜した。すぐに青い髪と赤い髪と黄色い髪が視界に入る。(あれ? 穴織くんと生徒会長も一緒だ)穂香に気がついた先生が、片手を上げた。「白川、ちょうどいいところに」「おはようございます」と頭を下げた穂香を、先生は職員室から連れ出した。そのあとを、穴織と生徒会長がつづく。【同日 朝/生徒指導室】生徒指導室に、赤・青・黄色の髪を持つ恋愛候補と、穂香がそろった。「さっそくだが、生徒会長から、だいたいの話は聞いた」と先生が腕を組む。「えっ?」と驚いた穂香に、生徒会長が事情を説明してくれた。「実は昨日、生徒会室のカギを返却しに職員室に行ったら、ちょうど先生と穴織くんに会って」穂香が「神々の試練って、そんなに早く終わるんですか⁉」と質問すると、先生が「いや、俺のときは1か月くらいかかったが、時空が捻じ曲がってるから、現実世界では数時間しか経っていないんだ」と教えてくれる。「それで、結果は?」穂香の問いに、穴織はグッと親指を立てた。「バッチリやで! 神々の祝福を受けたから、これで俺も長生きできるわ」明るい笑みを浮かべる穴織は、穂香の両手を握った。「白川さんのおかげや! ありがとう!」「ううん。先生のおかげだし、穴織くんが頑張ったからだよ」穴織は「めっちゃええ子や」と泣き真似をしながら感動している。穴織の胸ポケットからは、離す武器のおじいさんの声が聞こえてきた。『まだ一族全体の問題は解決しておらんが、涼だけでも助かる術(すべ)を得ることができて、希望の光が差し込んだ。娘よ、感謝する』生徒会長が「次は、僕が報告する番だね」と穂香の手を取った。「僕の問題は、白川さんの予想通り、先生と穴織くんのおかげで解決したよ」「えっ!? もう解決したんですか?」驚く穂香に、生徒会長は微笑みかけた。「うん。穴織くんに、調べてもらったら、僕の行く先々に化け物が呼び寄せられる呪いがかけられていたんだ」穴織が、「そうそう。ものすっごい複雑で分かりにくいヤツが。先生の協力がなかったら、俺では気がつけんかったわ」と言うと、先生は「俺だけでは無理だった。たまたま、その場に穴織がいたから見つけられ
「白川、泣いている場合じゃないぞ。生徒会長からだいたいの話は聞いたが、もう一度、現状を確認しよう」そう言った先生は、穂香にこれまでのことを話すように指示する。そして、すべてを聞き終えると、大きくうなずいた。「なるほどな。研究者が人類の滅亡を防ごうとしていることから、地球の未来は科学だけに特化した世界なんだろうな」生徒会長が、「それは、どういう意味ですか?」と質問すると、先生は、急に授業中のような顔になった。「地球では科学が進んでいるが、異世界では魔法や他のものが進んでいる場合があるんだ。科学者の発明が引き金になり、人類の滅亡が始まるなら、地球は少し他のものを取り入れたほうがいいのかもな」穂香は、先生の言っている意味がよく分からなかった。「分からないって顔をしているな? ようするに、人類滅亡を阻止するのではなく、そもそも人類が滅亡するような事態にならないくらいまで未来を大幅に変えるのはどうだろうかって話だ?」「な、なるほど?」うなずく穂香の横で、生徒会長がさらに質問する。「でも、先生。未来を変えて人類滅亡を阻止したとしても、高橋くんが消えるという問題は解決できていないのではないでしょうか?」穴織も、ウンウンとうなずいている。「そうやんな。未来を大幅に変えると、レンレンどころか、今後生まれてくるすべての人達が変わってしまうんじゃないですか、先生?」「そこが問題だな。俺の知り合いにこういうことにくわしい奴がいてな。ちょっと聞いてみるから、放課後まで待ってくれ」穂香が「はい、よろしくお願いします」と頭を下げると、生徒会長が「その詳しい人って誰ですか?」と質問した。「ああ、勇者パーティーにいた賢者だ。かなりの変人だが世界の理(ことわり)を知っている」物語の中にしか出てこないような役職名を聞いた穂香は『なんだか、すごいことになりそう』と思うと風景が変わった。【同日 昼休み/教室】(あれ? 放課後まで飛ばされると思ったら、まだお昼休みだ)今日からレンは、学校に来ていない。昨日言っていた通り、やり直しを食い止めているのだろう。(レンがいないと、一緒に食べる相手すらいないよ……)いつもお弁当を作ってくれている母には「今日は忙しいから、購買でパンでも買ってね」と言われ、お金を貰っている。(購買、混んでないといいけど)穂香が立ち上がると「穴織
3人で重箱をつついていると、みるみる中身が減っていく。中でも、穴織の食べっぷりは見ていて気持ちがいいくらいだった。「生徒会長、これマジで、めっちゃうまいです!」「喜んでもらえて僕も嬉しいよ」昨日、知り合ったばかりなのに、2人の会話は弾んでいる。「こんなうまい飯が毎日食べれるなんて、生徒会長がうらやましい!」「穴織くんは、転校して来たんだよね? もしかして、一人暮らしをしているの?」チラッと自分の胸ポケットを見た穴織は、「いや、まぁ、そんな感じです」と答えている。(話す武器のおじいさんが一緒だから、一人暮らしとは言い切れないんだね)穴織の事情を知っている穂香は心の中でそう思いながら、静かにため息をついた。(レン、大丈夫かな? ちゃんとご飯、食べてるかな……)穂香としては、レンが頑張ってくれているのに、自分だけのんびりしている状況が心苦しい。(でも、先生に放課後まで待ってくれって言われたから、待つしかないよね)しばらくすると、食事を終えた穴織が「ごちそうさまです!」と手を合わせた。生徒会長は、穂香の顔を覗き込む。「白川さんも、お腹いっぱいになった?」「あっ、はい! すごくおいしかったです。ありがとうございました」「でも、表情が暗いね」「すみません。レンのことを、考えてしまって」穂香が素直に伝えると、生徒会長の眉が下がる。「そうだよね。高橋くんのこと、心配だよね」それを聞いた穴織は、大きなため息をついた。「不謹慎やけど、正直、白川さんにこんだけ思ってもらえるレンレンがうらやましいわ」生徒会長はクスッと笑う。「分かる。僕も同じことを考えていたよ」「ですよね⁉ いくら白川さんに変わった能力があるとはいえ、自分を助けるために、こんだけ一生懸命になってくれる子がいたら嬉しいやろーなー。俺なんて、一生そういう子に会えそうもないわ」「僕もだよ」あきらめたような顔をする2人を見て、穂香は不思議な気分になった。(恋愛ゲームの恋愛相手に選ばれるくらい、2人ともハイスペックなのに?)顔よし、家柄よし、性格よしのすべてがそろっている。「あの、出会えると思いますよ」生徒会長と穴織が一斉に穂香を見た。「生徒会長も、穴織くんも、今まですごく大変な状況で、自分達が恋愛する余裕がなかっただけで……」穂香は、まっすぐ2人を見つめる。「でも
賢者は、「こういうときはね」と笑顔を浮かべる。「次元を部分的に塞いで、過去からの影響を未来人たちに流れないようにしたらいいんだよ。そうすると、未来人はそのまま残って周囲の環境だけが変わるから。でも、そこで未来は分離するね」説明がまったく理解できず、穂香は固まった。代わりに、生徒会長が質問してくれる。「分離というと?」「【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【君たちがこれから作っていく、まったく別の未来】の2つに別れちゃうってこと。この2つはとても似ているようで別物だから、まぁ並行世界ってやつだね。でもさ、次元の穴を塞ぐなんて、そんなことできるの、私くらいだと思うけどなぁ? 私だけじゃ、未来人全員は救えないよ?」先生が「こっちの世界には、それができる一族がいるんだよ。な?」と、穴織を見た。「そう、ですね……。一族全員でやれば、できるかもしれません。絶対にできるとは言えませんが、白川さんへの恩返しのために、全力でやります!」「方法や具体的な指示は賢者が出す。穴織の一族には、おまえから話しをつけてくれ」「分かりました」穴織の胸ポケットから『もちろん、わしも協力するぞ』としわがれた声が聞こえてくる。とたんに賢者の瞳が輝いたので、彼にも話す武器の声が聞こえているようだ。先生は、賢者に向き直ると「何をどこまでやれば、未来を分離できる?」と尋ねた。「それだけど、こっちの世界は、科学にだけ特化して滅びそうなんだよね? でも、私がいる世界は、魔法にだけ特化してて、こっちはこっちで、もうそろそろ限界なんだよ」「そうなのか?」深刻な先生に、賢者は「だからさ、この際、滅びそうな2つの世界を混ぜちゃわない?」と満面の笑みを浮かべる。「例えば、こっちにドラゴンでも召喚して、向こうには科学で作った巨大なものを飛ばすとか、どう!?」「世界中が大混乱に陥るだろうな……。まぁ、そこまでしないと、ハッピーエンドにはたどり着けないということか」ため息を着いた先生は、生徒会長に視線を送る。「おまえのほうで、なんとかできるか?」「はい。都合が良いことに、ちょうど今、父が僕への罪悪感に苦しんでいるんです。『なんでも願いを言いなさい』と言うほどに。そこを利用して、混乱を最小限に抑えるために裏から手を回します」「頼もしいな」先生に肩を叩かれた生徒会長は、ニッコリと笑う。
「やり直しより大変なことって……」戸惑う穂香に、レンはスマホの画面を見せた。画面には映像が流れている。――ご覧ください! 突如、日本の上空に謎の巨大生物が現れました!(キシャァアア!!!)――あれは、まさしく、ドラゴンです! ドラゴンは、空想上の動物ではなかったのです!ああっ!? 人が、人がドラゴンの背に乗っています! こちらに、手を、手を振っています!穂香は、寝起きの目をこすった。「何これ? 映画の宣伝?」「いいえ。今朝、本当にあった話です。心当たりないのですか?」そう尋ねられた穂香は、昨日、賢者が『こっちにドラゴンでも召喚して』と言っていたことを思い出す。「あ、ああああ! 心当たり、あるある! 昨日、賢者さんがそんなこと言ってた!」「賢者?」「先生の勇者時代の仲間で……」「よく分かりませんが、先生が関わっていることは分かりました。とにかく学校に行きましょう」「う、うん」穂香がベッドから下りると、風景が変わる。【同日 朝/職員室前】(私の部屋から、学校に飛ばされてる)職員室前でバッタリと先生にあった。「おお、白川と高橋。今日は早いな」先生は、いつものようにダルそうだ。そんな先生に、レンが詰め寄った。「少しお話、いいでしょうか?」「ちょうど俺も高橋に会いたかった。とりあえず、生徒指導室に行くか」レンがうなずくと風景が変わる。【同日 朝/生徒指導室】先生が生徒指導室の扉を閉めると、レンがポケットからスマホを取り出した。「今朝のニュースを見ました。ご説明ください」「まぁ、座れ」穂香とレンが座ったのを見ると、先生は嬉しそうに笑った。「高橋がここにいるってことは、成功したってことだな」事情を知らないレンは、眉をひそめている。「そんな顔するなって。高橋、今、未来と連絡とれるか?」「いいえ。今朝、急に取れなくなりました」「上出来だな。分離もうまくいったようだ」「分離?」先生はこれからの未来が【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【俺達がこれから作っていく、まったく別の未来】に別れたことを説明する。レンが「そんな……無茶苦茶な……」とつぶやいた。その顔は、真っ青だ。「こんなことをして人類滅亡より、もっとひどい未来を招いたら、いったいどう責任を取るつもりですか⁉」「これからは、科学と魔法が合わさってい
穴織の姿が見えなくなると、風景が変わる。【同日 夜/自室】(あれ? 次の日まで飛ぶかと思ったら、まだ夜だ。ということは、何かイベントが起こるかも?)しかし、もう夜も遅いので、涼はもちろんのこと、サポートキャラのレンもいない。(私は何をしたらいいの?)部屋の中を見渡すと、机の上におまじないの紙を見つけた。(これ、前に使ったやつだ。おまじないは、この紙を学校のどこかに埋めたら終わりって涼くんが言ってたっけ)ということは、このおまじないは、まだ終わっていないということ。(もしかして……)穂香は使用済みのおまじないの紙を枕の下にもう一度入れた。ベッドに入り、目をつぶるとすぐに意識がまどろんでいく。*【夢の中】教室に、白い制服を着た涼が立っていた。それは、昨日見た夢とまったく同じ光景だった。(やっぱり! このおまじない、まだ終わってなかったんだ!)長い赤髪が風に揺れている。光る武器を持ち佇む涼は、穂香に気がついていない。『来たのか、娘よ。確か名は穂香じゃったかの?』「はい。えっと、あなたは涼くんのおじいさん、ですよね?」『まぁ、そんなものじゃな。おぬしには、特別に【おじいちゃん♡】と呼ばせてやろう』冗談なのか本気なのか分からないので、とりあえず穂香は「あ、ありがとうございます」と返した。「じゃあ、おじいちゃん。涼くんは、どうしたんですか?」
「穴織くん、いらっしゃい。ど、どうぞ」「……お邪魔します」脱いだ靴を綺麗にそろえるところに、穴織の育ちの良さがうかがえる。 「私の部屋は2階で……」「あの、白川さん。今、部屋の中に、レンレンがいたような気がしてんけど?」「あ、うん。ちょうど遊びに来ていて……」穴織は「白川さんの、その発言が嘘じゃないことに驚くわ」とため息をついた。「と、言うと?」「だって、白川さんは今日、学校を早退したんやで? 俺も今、抜けてきたところやし…。レンレンがここにおるの、おかしくない?」穴織に嘘はつけない。穂香は本当のことを言うしかなかった。「そのことだけどレンは、登校したら私達が校門で話していて怪しかったから、今日は学校を休んだって言っていて……」「ふーん」こちらに向けられた探るような眼差しがつらい。「わ、私の部屋はこっちだよ」部屋に案内すると、部屋の中からレンが良い笑顔で手を振った。「穴織くん、いらっしゃい」「うぉい!? 白川さんの部屋やのに、自分の部屋のごとく、めっちゃくつろいでるやん!?」穴織からのツッコミを、レンは「穂香さんとは、幼馴染ですので」の一言で片づける。穂香も「本当にレンは、ただの幼馴染で……」と伝えると、穴織に「分かっとる、分かっとるけど……幼馴染って、こんな距離感が普通なん?」ともっともな質問をされてしまった。「さ、さぁ?」
穴織は「ところで……」と咳払いをする。「さっきも聞いたけど、白川さんは見えないものが見えるだけじゃなくて、ジジィの声も聞こえてるねんな?」探るような視線を向けられた穂香は、素直に「うん」とうなずいた。「え? マジで?」サァと穴織の顔から血の気が引いていく。「俺、なんか変なこと言ってなかった?」「ううん、言ってないよ。でも、穴織くんって何者なの? 嘘が分かるっていってたよね?その『ジジィ?』さんも……」穴織が「あ、あー……」と言いながら困ったように頭をかいた。「うん、まぁ、全部は話されへんけど、話せるところは話すわ。でも、ちょっと待ってほしい。今は、この学校で起こってることを調べなアカンから……」「分かった。私は帰ったほうがいいかな?」「うん、そのほうが助かる! あとで電話するわ」明るい笑顔で手をふる穴織に、穂香が手を振り返すと風景が変わった。【同日 昼/自室】(あっ、学校から家の自室まで飛ばされてる)レンが「おかえりなさい」と微笑んだ。「穂香さん、今日は早かったですね。学校を早退してきたんですか?」「うん。今、学校でおかしなことが起こっていて。って……レンはどうしてここにいるの!?」「登校したら、校門であなたと穴織くんがバラがどうとか言っているのを聞いて、何かヤバそうだなと思い、即、帰宅しました」「……そこは、私のために『サポートしてやるか』的な流れにはならないんだね」
穴織は、穂香の腕をつかむと、人がめったに来ない非常階段の踊り場まで連れて行った。「何が目的や?」冷たい声だった。「お前……白川さんに成り代わってんのか? それとも、『白川穂香』なんていう生徒は、初めからおらんかったんか?」「え?」穂香が、戸惑いながら穴織を見つめると、サッと視線をそらされた。「ほんま、最悪や。警戒していたはずやのに、いつの間にか心を許して、友達やと思ってた……」胸ポケットからは『むしろ、それ以上の好意が芽生えそうじゃったからな。いや、もう手遅れか? 最悪の初恋じゃのう』とのんきな声がする。無言で胸ポケットを叩いた穴織は、ハッとなった。「もしかして、ジジィの声も、ずっと聞こえてんのか?」穴織は、胸ポケットから光る武器を取り出した。小さくなっていた武器は、取り出したと同時に元の大きさへと戻る。「どこからが計画や」穂香が一歩、後ずさると、穴織は一歩近づく。「どうして、俺に近づいた? 早く言わんと……」壁際まで追い詰められた穂香は、穴織から放たれる殺気のようなものに圧倒されて声すら出せない。(い、言わないと、殺される!)なんとか声を絞り出す。「……ぁ、わ、私……」穂香は、自分が恋愛ゲームの世界に閉じ込められていることを話した。
【同日 朝/生徒会室前】(生徒会室までとばされてる)生徒会室の扉もバラの花で飾られていた。(穴織くんは、中にいるのかな?)穂香が生徒会室の扉をノックしようとすると、背後から口をふさがれ、後ろに引っ張られた。すぐに耳元で「なんで来たん! 白川さん!」と怒った声が聞こえる。「穴織くん? だって」「だってやない!」穂香が素直に「ごめんなさい」と謝ると、穴織は「あっいや、俺もごめん」と言いながら拘束を解いてくれた。「そりゃ気になるよな。ちゃんと説明できんくてごめん」どこか悲しそうな顔をしている穴織に、「ううん、私のほうこそごめん」と再び謝る。「俺な、ちょっとやらなあかんことがあって……。白川さんを巻き込みたくないねん」「……分かった」穂香は、もう一度「ごめんね」と伝えると、その場をあとにした。とたんに風景が変わる。【同日 朝/3階廊下】(学校の3階に飛ばされてる?) 3階には、3年生の先輩方のクラスがある。(どうしてこんなところに?)不思議に思って辺りを見回すと、黒髪の女子生徒がおまじないの紙を握りしめていた。(あの先輩も、おまじないをしたんだ)きっとおまじないに頼りたくなるくらい好きな人がいるのだろう。(女子生徒って久しぶりに見た気が……あれ?)恋愛相手しか見えないこの世界で、女子生徒が見えるという違和感。(見えるということは、あの先輩はモブじゃなくて、重要なキャラってことだよね? でも、恋愛相手ではないということは……)穴織は、おまじないをこの学校に広めた人物を探している。そして、穂香がその犯人候補になっていた。(私は無実だから、じゃあ、この先輩がおまじないを広めた人ってことなのかな?)そうではなかったとしても、重要な人物には変わりない。穂香は先輩に気づかれないように、そっとその場を離れて穴織の元へ向かった。まだ生徒会室前にいた穴織に駆け寄り「怪しい人を見つけたよ! 3年の先輩で」と急いで報告する。この時の穂香は、犯人らしき人を見つけた喜びで頭がいっぱいになっていた。戸惑う穴織の腕を引っ張り、先ほどの先輩がいた教室の近くへと連れていく。黒髪の先輩をこっそりと見せると、穴織の胸ポケットから『わずかだがあの娘から瘴気が溢れておる』と聞こえたので、穂香は嬉しくなった。(これで私が無実だと証明できたかな? お役に立てた
【同日 夜/自室】(学校の教室から、夜の自室までとばされてる。これは、もう早くおまじないをしろってことだよね)穂香の目の前におまじないをするかしないかの選択肢が現れたが、迷うことなく「する」を選んだ。(確か、この紙を枕の下に入れて寝るんだっけ?)枕の下におまじないの紙を入れてから、穂香はベッドに仰向けになった。これで好きな人の夢が見れるらしい。(そんな都合のいいことが……。たぶん、起こるんだろうなぁ、ここは恋愛ゲームの世界だし)目を閉じると、すぐに眠りに落ちていった。*【夢の中/教室】(あっ、無事に夢が見れたみたい)教室には、穂香の他にもう一人いた。(誰だろう?)真っ白な服に、同じく真っ白な帽子をかぶっている(軍服のような、着物のような……)白い軍帽の下では、長い赤髪が風に揺れていた。切れ長の赤い瞳に冷たい横顔。それは、確かに見覚えがあった。「もしかして、穴織くん?」穂香の問いかけに反応して、こちらをふり返った人は、確かに穴織の顔をしている。しかし、その顔からは表情が抜け落ちていた。「えっ? 穴織くん、だよね?」うつろだった赤い瞳の焦点が、徐々に定まり「……白川さん?」と呟いたとたんに、いつもの穴織の顔になる。「どうして、白川さん
【同日 昼休み/教室】(朝の教室から、お昼休みの教室に飛ばされてる)穂香が教室内を見回すと、穴織が分かりやすく悩んでいた。いつもニコニコしている顔から笑顔が消えるだけで、だいぶ雰囲気が変わる。少し伏せられた瞳は切れ長で、その横顔は冷たそうだ。(さすが元無表情クールキャラって感じ)「穴織くん、難しい顔してどうしたの?」穂香の声で我に返った穴織は、すぐにいつもの笑みを浮かべた。「あ、白川さん……ちょうど、良かった……」ちょうど良かったと言うわりには、綺麗な赤い瞳が泳いでいる。穴織の制服の胸ポケットが淡く光り、話す武器の声が聞こえてきた。『涼(りょう)、何をためらっておる?』そのとたんに、穴織は胸ポケットを手で押さえる。(教室で急におじいさんの声が聞こえても、騒ぎになってないってことは、この声、普通の人には聞こえていないんだね)「白川さん。文化祭のことで話があるねんけど、ちょっといいかな?」穴織に手招きされ、穂香は一緒に廊下に出た。「白川さん、これ知ってる?」穴織が持っている紙は、たった今、穂香がレンからもらったおまじないの紙と同じだった。「あっそれ、女子の間で流行っている、おまじないに使う紙だよね?」「そう! 白川さんって……これやったことある?」「ううん、ないよ」穴織の胸
真っ赤な顔の穴織は、「白川さん。ちょっとそこで待っててくれる?」と言いながら、通路の角に駆けていった。しばらくすると、穂香の耳元に穴織の声が聞こえてくる。(え? この距離で声が聞こえるっておかしくない?)もしかすると、恋愛ゲームをうまく進められるように、ひそひそ話が聞こえるようになっているのかもしれない。穂香は、心の中で『穴織くん、立ち聞きしてごめん!』と謝った。「ジジィ、おいジジィ!」『朝からうるさいのぉ』穴織が『ジジィ』と呼んでいるのは、話す武器だ。「なんかおかしいねん! 俺、白川さんに魅了されてないか?」『はぁ? 穴織家の血を受け継ぐ者に、魅了術なんか効くわけあるまい』「そ、そうやんな……でもっ」『なにを小娘一人に動揺しておる? 前の学び舎には、もっと綺麗な娘がたくさんいたであろう?』「いや、あいつらは論外やで。急にケンカをふっかけてくるし、俺が勝ったら穴織家の血が優秀やから、俺との子どもが欲しいとか、めっちゃ気持ち悪いこと言ってくるし!」会話の流れでなんとなく穂香は、穴織が前の学校で美少女ハーレム状態だったことを察した。(穴織くん、モテモテだったんだ。でも、相手にしていなかったみたい。それって恋愛に興味がないってことだよね? そんな人とどうしたら恋愛できるの?)穂香の不安をよそに、会話は続いている。『その綺麗どころを片っ端から無視して、顔色一つ変えずに淡々と任務だけをこなし、冷徹機械人形と呼ばれていたお前が、今さら何をあせっておるのだ?』「そ、そうやねん! 今まで他人なんか気にしたことなかったし、今回も潜入のために『普通の学生』を調べて演じてただけやねんけど……。演じているうちに、普通の生活の楽しさに目覚めてしまったというか……」少し間を空けて、穴織の真剣な声が聞こえた。「白川さんと話してたら、俺、本当に普通の人になれたみたいで、なんかめっちゃドキドキする……」『まだまだ青いのぉ。浮かれて気をぬくでないぞ。あの小娘の正体は、まだ分かっていないんじゃからな』「そうやけど……いや、そうやな」穴織の言葉を聞きながら、穂香は『なるほどね』と納得した。(穴織くんは、今まで特殊な環境で生きてきたから『普通』に強く憧れているんだね。だから、ものすごく普通な私に、こんなにも好意的なんだ)よくできた愛され設定だと、穂香は感心する
風景が変わり、穂香の目の前に日付が現れる。【10月7日(木)朝/自宅玄関】「うわ!? 騒いでいる間に、次の日になっちゃってる!」 慌ててレンの姿を探しても見当たらない。「嘘でしょ!? 私を穴織くんと2人っきりで登校させる気なの⁉」昨晩『ようやく恋愛ゲームになってきました』と喜んでいたレンならやりかねない。穂香がおそるおそる玄関の扉を開けると、家の門付近に赤い髪の青年が見えた。(う、うわ……穴織くん、本当にいるよ)穂香がどうしたものかと悩んでいたら、こちらに気がついた穴織が人懐っこい笑みを浮かべて片手を上げた。「白川さん。おはよー!」「う、うん。おはよう……」穴織の爽やかさに圧倒されながらも、穂香はなんとか挨拶を返す。「じゃあ、行こうか!」そう言って穂香の隣を歩き始めた穴織は、本気で一緒に登校する気のようだ。【同日 朝/通学路】「……えっと。穴織くん、急に一緒に登校しようって、どうしたの?」穂香が思い切って尋ねると「え? 迷惑やった?」と逆に聞かれてしまう。「いや、迷惑ではないけど……」「じゃあ、いいやん! あ、レンレンとは、いつもどこで合流するん?」穂香は、穴織をまじまじと見つめた。「どしたん?」大きく息を吐きながら、穂香は胸をなで下ろす。「そっか……。穴織くんは、3人で登校するつもりだったんだね……」「え?」「おかしいと思ってたんだよ」いくら『敵かも?』と疑われているとしても、いきなり2人きりで登校しようなんて攻めすぎている。(私とレンと穴織くんで登校するつもりだったから、あんなに強引だったんだ)穂香が「今日は、レンいないよ」と伝えると、穴織は「え? なんで?」と驚いている。「私が、穴織くんに誘われたってレンに言ったから、レンが勘違いして気を利かせてくれたんじゃない?」「気を利かせるって?」「その、デ、デート的な? 2人きりで登校したいって勘違いしたってことだね、たぶん?」誤魔化しながら伝えると、穴織の顔がカァと赤くなった。「あ、ちがっ!」「大丈夫、大丈夫。私は勘違いしていないし、ちゃんと分かっているから」「そ、そうなん? でも、レンレンは勘違いしてんねんな? なんか、ごめんっ!」「別にいいよ」 穴織は、申し訳なさそうな顔をしている。「だって、自分ら、めっちゃ仲良いやん? 俺が邪魔してレンレ